林真理子さんの小説「5080」を読みました。昨日に引き続き妹が持ってきてくれた本です。

5080

引きこもりの子どもが50代になり、親は80代へ。
50代の子どもは自立できないまま、親子で親の年金だけで暮らして経済的にも精神的にも追い詰められる、さらに近い将来必ず来る親の死・・・最近の社会問題としてメディアで聞くようなった「5080問題」

50代60代だと自分の親世代は80代、もし今の自分が引きこもったまま、自立できないまま80代の親の家で暮らしていたらと想像すると、それがどれだけ深刻な事態か容易に想像できますね( ;∀;)

帯には「絶望と再生の物語」とあるので、5080問題でどのような家族の再生物語かと興味深く読み始めましたが、主人公は20代息子と50代夫婦でした。彼らが近所で実際にあった5080問題の家庭を見聞きして自分たちの30年後だと理解し、必死で再生の道を模索するストーリーでした。

息子がまだ20歳と若いので確かにいくらでも再生の道は開けているようですが、引きこもりに関しては本人の意思が肝心。引きこもったきっかけが、父親が歯科医院経営という家庭で、両親から医師になることを希望され中学受験で進学校に合格するも、そこで壮絶ないじめ(刑事事件レベルの)に合ったことが原因、本来優しく親の期待にも応えたいと思っていた子であるため親に理由を言えずで立ち直りが極端に難しい状況。

親は父親は正論を押し付けがちで突き進むタイプ、妻にも「子育てはおまえにまかせてきた。(自分は家族のために働いてきた)息子がこうなったのはお前の子育てが失敗したせいだ」との思いがあり、息子の悲惨な状況に直面するとそれを口にも出してしまう。母親は結婚以来ずっと専業主婦なため従順だけど、家事に加え舅の介護もしてきており、息子の中学受験時もサポートしやってきたのに息子の心配で精神的に弱っている中、夫から子育ての失敗を責められ、夫への気持ちが急速に冷めて行く。

息子の姉は優秀で引きこもらなければこの姉と同等レベルの道を歩んでいたであろうと容易に想像できる、だから両親は余計辛い。順調に育った娘のほうは両親の希望でもあるが、有名大学を卒業し一流企業に就職した娘は結婚を約束している相手とその家族に弟のことを知られるのが恥ずかしい、自分の将来が弟によって滅茶苦茶にされるとの思いしかなく、両親に対しては弟を無理やりにでもなんとかしろとの提案しかしてこず、両親は娘の家族への思いやりのない残酷さに暗澹たる気持ちになる。

おおまかにこのような家庭状況で話が進むのでどうなるのかと没頭し一気読みしました。

5080問題にまでなったら再生の道は可能性がかなり低くなってしまうでしょうから、現実の5080は違う問題、もっとずっと悲惨だとは思います。でも、問題のそもそもの原因、引きこもりは学校時代のいじめ、職場でのいじめなど人間関係の躓きが多いのではないかと思いますので、引きこもりの原因、中学でのいじめに重点を置いているのは今の5080問題につながると思います。

息子が20歳なので引きこもりの原因の中学時代のいじめの問題がまだ生々しい。いじめ当事者たちがいわば「青春を謳歌している」「明るい未来が開けている」様子が同級生なだけに両親にとっても身近。そこがまた彼らを2重に苦しめて、裁判で戦うことを決心するという展開なので、いじめ問題やいじめ被害者になって裁判を起こすことがどういうことかに焦点が当てられていてとても興味深かったです。というか、気分悪かったです。「いじめ」という言い方、幼稚園児が玩具を貸してあげないとかの「子どもの意地悪」レベルと一緒くたな感があるし。小説の中のこととはいえ(でも実際ニュースで見聞きする事例はもっと残酷だと思う)まかり間違えば死んでしまうかもしれないようなレベル、「いじめ」じゃなくて「傷害事件」「脅迫罪」としか思えないです。そういう言い方にしたら学校側も何かあったらそのたび「傷害事件」だの「暴行罪」だの言わないといけないからもう少し真剣になるかも、などと思いながら読みました。