社会派ミステリーかなと思って読み始めましたが、ミステリーではなく群像劇。現代社会の雇用問題や政治、国の未来について考えさせられるシリアスな小説でした。重いけれど主人公たちの成長に引き込まれ、ハラハラしながら応援しつつ一気読みました。

太田愛「未明の砦」

大手自動車メーカー「ユシマ」の工場で働く四人の非正規工員は、夏休みのある出来事を契機に大きくその人生の軌道を変える。そして冬、彼らは共謀罪の初の標的となる。逃亡のさなか、四人が決意した最後の実力行使の手段とはー。共謀罪始動の真相を追う刑事、この国を超法規的な手段で一変させようと試みるキャリア官僚。怒りと欲望、信頼と打算、野心と矜持。それぞれの思いが交錯する。最注目作家・太田愛が描く、瑞々しくも切実な希望と成長の社会派青春群像劇。

内容紹介(「BOOK」データベースより)

非正規雇用の4人の若者が主人公。
小説なので誇張された表現はあるでしょうが、過酷な労働環境や待遇、労働条件の描写が続き重い内容。福利厚生や様々な保証など、正社員であればあるはずのものが一切ない使い捨て感覚の雇用について考えさせられる小説です。

私が就職した時代、正社員が当たり前でした。その他の働き方をするほうがめずらしかったくらいです。女性は男性の補助的な仕事しか与えられないこともまだ多かった時代ですが、補助的な事務職だって正社員での雇用が当たり前でした。

あの時代の雇用、年功序列、能力関係ない自動昇給など問題もあったとは思いますし、すべてがよかったというつもりはありませんし、今のほうが良いこともいろいろとあるのでしょうが、それにしても、若い人たちが正社員になることに、ここまで苦労を強いられる世の中になるとは想像もしませんでした。若い世代が希望が持てない状況は良いはずがない。

労働者の歴史、労働法など、文献からの引用は勉強になりました。「そうだったのか」と恥ずかしながら初めて知ることも多かったです。こう書くと難しそうな小説かと思われそうですが、分厚い本でも没頭して一気に読んでしまう力作。主人公の4人の工員、刑事の2人組、週刊誌記者とカメラマンの2人組、会社幹部と上司、それぞれが時間軸を移して交錯して最後すべてがつながる展開なのも読みごたえありでとても面白かったです。

老害政治家たちの排除方法、小説みたいなことが現実にもあったらさぞかし胸がすく思いでしょうね。

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