シリアスな社会派群像劇小説のすぐあとに読んだのは、思いっきりの通俗小説、タワマンで暮らす家族のお話です。直前に読んだ「未明の砦」の主人公たちと正反対の、世間的には勝ち組と言われる人々が主人公。
外山薫「息が詰まるようなこの場所で」
タワマン文学の先駆者、窓際三等兵(かもしれない人の)初の書下ろし長編小説!
タワマンには3種類の人間が住んでいる。資産家とサラリーマン、そして地権者だーー。
内容紹介(出版社より)
大手銀行の一般職として働く平田さやかは、念願のタワマンに住みながらも日々ストレスが絶えない。一人息子である充の過酷な受験戦争、同じマンションの最上階に住む医者一族の高杉家、そして総合職としてエリートコースを歩む同僚やPTAの雑務。種々のストレスから逃れたいと思ったとき、向かったのは親友・マミの元だった。かつては港区で一緒に遊び回り、夢を語り合った二人だったがーー。
幸せとはなんなのだろう。
逃げ場所などない東京砂漠を生きる人々の焦燥と葛藤!
いかにもドロドロ系?と思いきや、意外にも登場人物それぞれが人生真面目に生きていて、誰もが何かしらあるであろう劣等感や焦燥感などで苦しむ。妬みや悪意で人間関係がこじれるタイプのストーリーではないため、げんなりすることなくどんどん読み進められる小説でした。9年後、それぞれの夫婦の子どもたちの視点で終わるラストもスッキリです。
私が30代のころDINKSという言葉が流行りました。「Double Income No Kids」
その時はNo Kids、夫婦2人だけで、Double Incomeの生活で自由に豊かに暮らす意味合いでしたが、令和の今は子供もあり。で、中学受験という凄まじい要素もプラス(^^; 今だとパワーカップルという言葉でしょうか。
主人公は
・銀行勤務のパワーカップル、子供は小学生の息子が1人の家族。
・一族で医療法人や会社などを経営する医者の夫と元モデルの妻、子供は小学生の息子と娘が1人ずつの家族。
脇役に
・タワマンの地権者、建設予定地で定食屋を営んでいた夫婦、息子が2人の家族
・子供が3人になった時点でタワマン暮らしをあきらめ千葉の郊外に広い理想の家を建て引っ越した主人公パワーカップル妻の親友
・主人公パワーカップル妻の同期のDINKSの同僚、一般職の妻と違い総合職。新人時代は主人公パワーカップル夫の後輩で帰国子女で高学歴、非常に優秀で海外勤務の希望を出すも実現せず国内支店ばかりの主人公夫と違い、何度も海外勤務も経験しており主人公夫より銀行での出世は確実。
このドラマのような登場人物設定でまさにドラマを見ているようにすいすいと軽く読み進められ数時間で読み終わってしまいました。
主人公の夫婦2組4人の視点で進むストーリーですが、どんな環境、どんな地位、どんな育ちでもそれぞれにコンプレックス、自分にないものを持つものへの羨望、焦燥感、何歳になっても母を恐れる心理状態、子供時代のトラウマ、、、etc
タワマン最上階住みの医者&モデルの家庭など1人息子は中学受験塾でも成績は断トツのトップ、娘はピアノコンクールで何度も優勝している天才設定など、ちょっと縁のない世界だしここまでトップクラスだと憂いも何もないでしょ!という感じですが、この夫婦にも内に秘めた非常に強い劣等感、子供時代のトラウマ、様々あり。よく描けていました。
「上には上がいて劣等感焦燥感に苦しむ」
「隣の芝生は青い」
「ついつい子供を比べる」
こういうことから解放されたらとても楽に生きられるはず。
誰もがわかっていることだと思いますが、わかっていてもついつい、、、というのが人間か。