宇佐美まこと「鳥啼き魚の目は泪」

とても面白かったです。個人的にとても好きなタイプのお話でした。
妹のおすすめで図書館で借りた本でしたが、じっくりと味わって読みました。
本を読む時、いつもどんどん読み進んでしまうんですが、情景と心情を想像しながらじっくりと読みたいタイプの本でした。

昭和初期、平成、令和と過去と現代を行き来するお話、、、といっても昭和初期は昭和8年と9年のたった2年の間の出来事。平成10年と令和5年もほんの数ページだけ、お話の主軸は昭和初期の2年間の出来事がほとんどです。時を越えて平成と令和がプロローグとエピローグ、中のほとんどを占める過去、昭和初期がモノローグといった構成です。こういう構成のお話、好きです。

駆け出しの造園設計士・高桑は大学の卒論で作庭師・溝延兵衛と、彼の代表作となったある庭を取り上げて以来、長年にわたり取り憑かれ続けていた。
武家候爵・吉田房興が兵衛に依頼したもので、定石を覆す枯山水を作るために、大きな池が埋められていた。その池からは、白骨死体が見つかっていた――。
昭和初期。限られた時代を生きたある華族の哀しみと、異能の作庭師の熱情が静かに呼応する「美しい庭」の誰も知らない物語。

内容紹介(出版社より)

本の中で華族のことを「80年ほどしか存在しなかった階級制度」とありましたが、言われてみると本当にそのとおり。自分には縁のない階級社会ですが、存在していた期間も短くてさらに知る由もない世界といった感じです。それだけに侯爵家当主の妻付きの女中であるトミの視点で語られる華族、侯爵家の人々の暮らしぶりや考え方はもちろん、教養やたしなみ、人間関係、家の継承、表のきれいな面だけでなく、スキャンダラスな事件や犯罪を犯す人も中にはいて当時の新聞をにぎわしていたことなど、興味深く面白かったです。

そして、お話のもう1本の軸、作庭。
こちらも華族のお話のほうがまだマンガ(はいからさんが通るとか(^^;)で馴染みがあるとかちょっとだけは知っているといえるかも、、というほどに私にとっては知らない世界。

もちろん枯山水庭園を見学したり散歩したりしたことはあります。でも作庭の極意となると全くです。天才作庭師が侯爵家のお屋敷の広大な庭を費用を気にすることなく作庭していく描写、私の乏しい知識と想像力ではとても追いつかない壮大さでしたが、どんなお庭なんだろうと乏しい頭なりに想像しつつ読み進みました。

ラストほんの数ページ、令和のエピローグが見事。本のタイトルの意味もここでわかります。
(でも、楽天ブックスのレビューでここを書いているものも。本を読む前に見るレビューはAmazonのほうがいいかもです)

ミステリー要素もありでかなり面白く読めましたが、ミステリー要素を抜きにしても華族と作庭、縁のない世界についてとても興味深く面白く読めました。